MRI原理の基礎解説も三回目になりました!

前回までのお話では、共鳴→励起の流れをみてきましたね。
そして今回は励起されたあとのお話。
いよいよ緩和の話をしていきたいと思います。

MRIにおける緩和とは??(もとさやに戻りたいってこと)
RFパルスを受け取って(共鳴して)不安定な状態になった(励起された)プロトンは、安定な状態(エネルギーを受け取る前の状態)に戻ろうとします。
ここまでの話を忘れちゃった場合は下の記事を参考にしてださい!
前回説明したように、z軸上の話では上向きのプロトンが下向きのプロトンになった状態が不安定な状態でした。
安定になるとは、下向きになったプロトンが再び、上向きになるということです。

▼RFパルスと出会って上向きのプロトンが下向きになったけど不安定なので緩和してもとに戻るgif▼
そして、xy平面上では励起されたことによってスピンの位相が揃いましたよね。
これも同じように、もとの状態(位相がバラバラ)に戻っていきます。


この、「もとの状態に戻ること」が緩和です。
z軸方向のプロトンが下向きから上向きに戻ることで全体的な磁化ベクトルが大きくなっていくことを縦緩和。
もともとの安定な状態、最初の状態が、z軸上に磁化ベクトルがある状態なので、「縦磁化が回復する」と教科書的には言っています。
これが縦緩和(T1緩和)です。

そして、一つにまとまっていたスピンの位相がもともとのように、バラバラになっていくことが横緩和(T2緩和)になります。
なぜ、横緩和は縦緩和より長いのか(T1>T2なのか)
授業では、よくわからないけど必ずT1はT2より長くなることが強調されて、絶対に覚えておくように言われましたよね。
T1>T2ということはつまり、縦緩和が横緩和より長いということ。
z軸上の回復の方が、スピンの位相がバラバラになるよりも時間がかかるということです。
なぜ、この関係性になるかというと物理学的な話になるのですが、横緩和の場合は位相が揃ったプロトンのスピンどうしで「エネルギーのやりとり」をしています。
これをスピン-スピン緩和と言うそうです。

※スピンスピンというと、センター国語を思い出します。
この場合、xy平面上に均等に広がって(バラバラになっていく)戻っていき、横緩和は速やかに進行します。
よく、指数関数的に減衰するといいますよね。
指数関数的ってなんだ??と思うかもしれませんが、y=x²のグラフのように、急激に値が変化していく様子を表現しています。
この時に受信コイルによって誘導される高周波電流によって観測されるのが前回も言ったFID信号です。
T2の減衰の様子はFID信号として観測されます。
▼T2が減衰していくのとFID信号が消失していく過程のイメージ▼

FID信号がすぐに消失してしまうのもこのため(T2成分がすぐに減衰するため)です。

これに対して、縦緩和の場合は外側にエネルギーを放出する過程をとります。これをスピン-格子緩和と言うそうです。
格子ってなんだよ!
と言いたくなりますが、簡単にいうと、”格子”とは周りを取り囲むもの、つまり、環境のことを指していると思ってください。
下向きスピンは格子という周りの環境にエネルギーを渡すことで、安定になろうとします。
エネルギーの移動は熱エネルギーの交換など、大きなエネルギーの移動を伴い、時間がかかります。

なぜ脂肪のT1は水よりも短いのか
授業では、大まかな物質のT1値とT2値の大小を覚えさせられますよね。

わたしの場合は完全に丸暗記して覚えていましたが、もちろんこれにも理由はあります。(理屈はけっこう難しいですが…)
縦緩和の場合、励起されたプロトンのエネルギーの移動がどれくらいしやすいかがカギとなります。
さらに言うと、格子の磁場の周波数とプロトンのラーモア周波数が近いとエネルギーの移動はスムーズになります。
周波数とは、「回転」つまり動きやすさのことですよね。
分子の動きやすさは分子の大きさに関係しています。
すごく簡単に説明すると、水のように小さな分子は早く運動します。(周波数が高くなる)
対して、脂肪の場合は分子の大きさは水分子よりも大きいので、運動の周波数はそれほど高くなりません。
その周波数はちょうど、一般的に使用されるMRIのラーモア周波数に近くなります。
そういうわけで、脂肪のほうがエネルギーの移動がしやすい(縦緩和しやすい)のでT1は短くなります。
こういうわけで、縦緩和は横緩和より必ず大きくなり、生体内では5~10倍の差になります。
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